2011年に刊行された本なので、もうずいぶんと昔の本になってしまいました。
けれど、時々思い出したようにとりだしては読み返す本の一冊になっています。
著者の山崎寿人さんは、親から譲り受けた不動産の収入を頼りに節約生活をおくる人。
その家賃収入は年間100万円。
つまり月々7万円程度でやりくりしながらも、自分らしい楽しい生活を送る姿を紹介した内容です。
「FIRE」のその先には、いったいなにがあるのか?
わたしがこの本を読み返したくなるのは、「あぁ、これで良いよなぁ…これが良いんだよな…」と幸せの基準を再確認するためだと思います。
さいきん、本屋でもネットでもビジネス本のコーナーを見ると「FIREムーブメント」に関する本が多数出版されていますよね。
ここで言うFIREとは、Financial Independence, Retire Early のこと。
日本語でいうと「経済的自立」とか「早期リタイア」です。
おおむね、数千万円をリスクの低いインデックス投資で運用しながら生活費を稼ぎ、会社や仕事に依存しない生活を送ることを言います。
山崎さんは不動産、FIREムーブメントは金融資産とその違いはありますが、経済的自立をしているという意味でも、かなり似たシチュエーション。
ざっくり言って、しっかり節約して種銭を捻出し、リスクを管理しながらインデックス投資を続けていけば、遅かれ早かれ誰でもFIREに到達するでしょう。
けれど、巷で語られるFIREはどうもそれ自体が目的化しているように見えてなりません。
自由になって、いったいなにをするつもりなのでしょうか?
「会社が嫌だ!」「働きたくない!」そんなネガティブな理由でFIREを目指すのは否定しません。
わたしだって、そんな気持ちがあって今のフリーランスというスタイルに行き着いていますから。
けれど、それこそ自由になって思うのですが、ほとんどの人の自由時間より、ほとんどの人の労働時間の方が、いろんな意味で有意義だなと思います。
わたしの知人で、派遣社員と無職を繰り返しながらマイペースで働く人がいます。
それは別に良いんですが、彼が無職の期間、なにをしているかと言うとただツイッターとYouTubeを見ているだけなんですね。
結果、さいきんは変な陰謀論ばかり好んでいるようです(笑)
だから、本当は良い人なんですけど、どんどん友達を減らしている。
自由=幸せ、ではないとヒシヒシと感じる出来事でした。
彼を見ていると、「そんなことしているならちょっとでも働いて、人と関わったりしたほうがよっぽどヘルシー」だと思います。
今のSNSは「コンビニで週刊誌を読まない人に、週刊誌を読ませる装置」といっても大げさではありません。
わたしたちの暇な時間を、ワイドショーやゴシップでいっぱいにしようと手元から狙っているスマホやSNS。
FIREで得た自由も、もちろんやつらのターゲットです。
政治や芸能人を燃やすためにFIREするなんて、ほんとうに滑稽だし、きっと誰もそんなこと望まいでしょう。
けれど、その力学だたしかにスマホのなかには働いています。
だからもしFIREを目指すなら、それを目的とせず何をやるための手段としなければいけません。
今はその「なにか」をより、強く意識しないとすぐゴシップが入り込んできます。
さてでは『年収100万円の豊かな節約生活術』の山崎さんはどうでしょうか?
本書後半で語られていますが「我が家はいつも千客万来!」だそう。
山崎さんの趣味は料理。
かつて食べ歩いた名店の味を家庭で再現するのに心血を注いでいます。
その特技が友人に知れ渡ると、山崎さんの部屋はあっという間にお家居酒屋になったそうな。
そんな瞬間があるからこそ、孤独な「経済的自立」生活でもやっていけるのではないかとわたしは思います。
「自由」には甘美な誘惑があります。
けれどいざ自由になってみると、あんがい「まとも」でいることが難しいのです。
おそらく不自由なサラリーマン生活よりずっと、自立と自律を意識しないといけません。
先ほどのとおり、情報過多の現代は「まとも」でいるのがほんとうに難しい。
山崎さんはその「自由」のなかで「まとも」に暮らしているように見えるのです。
日々の節約の工夫を楽しみ、料理を楽しみ、ときには友達と酒を酌み交わす…。
自分の好奇心を満たすこと。
人と笑顔で交流すること。
それは幸せの基本であり、極意であるように思います。
そこにFIREだとかなんだとかは関係ありません。
その幸せの水準点を再確認したい時に、わたしはこの本を読み返しているように思います。
この本には今で言う「ポイ活」の情報なんかもあるんですが、さすがに古くなっています。
けれど、料理の章やその考え方を綴ったエッセイは今でも十分読める内容だと思います。
特に著者の山崎さんが刊行時点で50歳ということもあり、「子育てが終わって、そろそろ自由に自分の人生を楽しもう」とか「ぼちぼち定年退職」というタイミングの方なら、読んでいておもしろいのではないでしょうか?
この本はAmazonの読書サブスク「Kindle Unlimited」に登録中。(記事執筆時点)
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サクッと読める本なので、ぜひ気軽に読んでみてください。