編集者・コラムニストの天野祐吉さんが聞き役となり、さまざまな隠居の達人たちと話をしていく対談集『隠居大学』を読みました。
登場するのは、こちらの6名の方。
- 画家の横尾忠則さん
- 英文学者・コラムニストの外山滋比古さん
- 美術家・作家の赤瀬川原平さん
- 詩人の谷川俊太郎さん
- 俳人の坪内稔典さん
- 画家の安野光雅さん
それぞれが隠居のあり方をざっくばらんにお話されています。
この本の刊行は2011年であり、10年も前になりますが、話されている内容はかなり普遍性があると思います。
まさに今、現役を引退なされて隠居になった方も、そもそも早く隠居になりたいわたしみたいな人も(笑)ぜひ読んでおくべき対談集です。
隠居はとても自由な存在。
しかし多くの人にとって隠居とは半強制的に迫られてスタートするものですよね。
「引退後やることがなくて、元気がなくなった…」
そんな風になってしまうのは、隠居生活の中の有り余る自由をどうして良いかわからないないからでしょう。
「自由」というと、どうも甘美で魅惑的な響きがありますが、その実、人間は有り余る自由を前にすると立ち尽くしてしまう。
一方で「自由」は、使いこなしさえすれば、人生の主人公は自分となり、そこはかとない充実感をもたらすものでもあるでしょう。
その自由を満喫するコツ、自由を使いこなす考え方が『隠居大学』では語られています。
隠居大学
外山滋比古さんに学ぶ、雑談のマナー
わたしが印象に残った部分をひとつ紹介します。
外山滋比古さんのパートでこんな話がありました。
外山さんは月に1、2回は友人と集まって雑談をするそうです。
テーマはフリー。
しかしルールがあるそう。
固有名詞は出さないことと、動詞は現在進行形で話すこと。人の名前を出すとゴシップになりますし、過去形を使うと、どうしても自慢話が出てきてしまうから。
これはとっても良いルールですよね。
ゴシップと自慢話についつい人は興じてしまうものですが、どちらも他人を咎めることで今の自分が安住の地にいると見せかける行為です。
とは言え、自分自身は何も動いていないので、現実は変わらず、日々の充実感は増していきません。
たまーになら良いのでしょうが、ゴシップの自慢話の快楽に溺れると、周りから人がいなくなると思います。
じゃあゴシップと自慢話以外で、人と楽しく話すためにどうすればよいか?
その時、外山さんのルールが役立つと思うのです。
わたしは「おもしろい話」の条件のひとつに「リアリティがあること」があると思います。
「固有名詞を出さない」「現在進行形」のルールで話すことで、話の内容が「自分」の「今」にフォーカスされ、グッとリアリティーを醸す出すでしょう。
すると会話がいきいきとして盛り上がると思うのです。
それでいて誰かを傷つけるわけではないからとても健全。
これは何も「雑談の会」特有のルールにするのではなく、できれば日々心がけていきたいなぁと思いました。
穏やかなコミュニケーションを日々の中で増やしていきたい。
今、インターネットの世界は固有名詞を用いた悪口に溢れています。
その悪口を源泉に、巨大IT企業は利益を増し、写真週刊誌は購読数を伸ばし、誰かが犠牲になっても誰しもが責任をとりません。
手のひらにゴシップ紙やスポーツ新聞をいつでも持ち歩き、その世界観を後押しするSNSが隆盛を極めている。
ほんの一昔前なら、そんなゴシップなんてどこ吹く風で自分の人生にまい進していた人も、ゴシップの誘惑を無防備に受ける環境にあります。
今はまともな隠居になるのが難しい社会なのかもしれません。
きっともっと意識的に「固有名詞を出さない」「現在進行形」といったルールを自分に課さないことには、まともな人間でい続けることすら難しい。
少し話が大袈裟ですが、『隠居大学』は現代社会の病理に対する処方箋のようにも読めました。
また対談集ということで、この本をきっかけにまた新しい本にたくさん出会えます。
恥ずかしながら、わたしは外山滋比古さんを存じ上げておらず、この本をきっかけに図書館で外山さんの本を何冊か借りて読んでいます。
ベストセラー『思考の整理学』は順番待ちがエグいので買おうと思います(笑)
外山さんは残念ながら、2020年7月に亡くなられたそう。
これまで外山さんを知らなかったなんて、なんてわたしは人生損していたのでしょう。
外山さんが残してくれた膨大な著書を、これからゆっくり読もうと思います。
また安野光雅さんが訳された「超訳 即興詩人」も読みたいなぁと思っています。
イタリアを舞台にした青春小説の金字塔とのこと。
教養が深い6名の方々なので、知識が縦横無尽に展開されます。
対談ですからとっても読みやすいですが、今後読み返すたびに新たな発見があると思います。
多くの方におすすめできる本なので、ぜひ手に取って読んでみて下さい。
隠居大学
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