名作として今なお人気がある映画「かもめ食堂」
小林さとみさんが主演で、2006年に公開された映画です。
舞台は北欧フィンランドのヘルシンキ。
今に続く北欧ブームの火付け役とも言われています。
主人公はヘルシンキで「かもめ食堂」という日本の大衆食堂風メニューを提供する食堂を営んでいます。
メインはおにぎり。
かもめ食堂には幾人かの人々がやってきます。
かんたんに言えば、主人公とお店にやってくる彼、彼女らとの交流を描いた映画です。
悲しい人に、できることは
ふつう、このような設定の映画の場合、お店にやってくる人々は何か悲しみを抱えていたり、事情があったりしますよね。
「かもめ食堂」にやってきたミドリ(片桐はいりさん)やマサコ(もたいまさこさん)も、何やら思わせぶりな雰囲気を醸し出しています。
なにせわざわざヘルシンキまで女性一人でやってくるわけですから、何か思うところがあるに違いない。
ふたりとも「いつまでいるかは決めていない」なんて言うし。
しかし主人公のサチエ(小林さとみさん)は、そこを深堀しません。
ここにわたしは「そこはかとないリアリティ」を感じます。
っと言うのも、大人になると子どものように悲しみをわめくことはできなくなりませんか?
悲しむことでまた誰かを悲しませることへの配慮なのか、「かまってちゃん」になりたくない自尊心なのか。
その悲しみをまき散らすことができなくなってきます。
しかし人から悲しみがなくなることはありません。
では、涙のない大人の悲しみに、周りは何ができるでしょう?
絵本「星の王子様」で、星の王子様とキツネの心の交流が描かれた部分があります。
キツネは王子様に「明日は少し離れたところに座って、次の日は少し近づく、そうやって少しづつぼくをなつかせておくれ」と言います。(筆者意訳)
そんな奥ゆかしい関係性をわたしは信頼しますし、人本来の在り方にも思います。
サチエの態度もキツネに似ています。
サチエは自分の信じる店舗経営を、シンプルに繰り返す毎日。
その中で頑固な一面をのぞかせながらも、ミドリやマサコといっしょにいることを受け入れます。
いっしょにいることに、条件や理由や事情は問わないのです。
それはとても慈悲深く、愛情に満ちた態度ではないでしょうか。
そんなサチエの日常は最終的に
かもめ食堂が満席になったよ
というシーンでやわらかく肯定、祝福されます。
サチエの態度や日常を肯定したこの映画に、わたしも同意します。
涙を見せない大人の悲しみにより添えるのは、サチエのようなシンプルな日常だと思うからです。
日常とは、反抗期の息子に文句を言われながらも毎日お弁当を作る母であり、年頃の娘に邪険にされながらも毎日働く父です。
その意味で、この映画は多くの人を肯定するのではないでしょうか。
実はシンプルな日常を肯定してくれるものは、この世界に少ない気がします。
なぜなら日常とは得てして、経済的成功や社会的地位とはかけ離れた場所にあるからです。
サチエも経済的には決して成功しているようには見えません。
仕事の成功はお金が、地位の成功は肩書が肯定してくれます。
しかし日常を肯定してくれるのは…。
だから「かもめ食堂」のような映画はとても貴重で尊いなと思います。
かもめ食堂は「思いやり映画」
ジブリの名物プロデューサー鈴木敏夫さん曰く、宮崎駿作品は「思い入れ映画」、高畑勲作品は「思いやり映画」だそうです。
宮崎駿さんのスピード感があり、感情高ぶる映画は、自分も主人公になった気分になり、登場人物に思い入れる映画。
高畑勲さんの作品は、少し客観的になって、むしろ登場人物を思いやる映画だと。
それでいうと「かもめ食堂」は「思いやり映画」に近いと思います。
なにせ涙と感情をぶつけ合うシーンがありません。
観る側が、登場人物たちの感情を想像する=思いやる必要があります。
その意味で、かもめ食堂は評価が分かれるところもあるようです。
ぜひ初見の人は登場人物たちを思いやってみて下さいね。
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また「かもめ食堂」と同じく監督荻上直子さん、主演小林聡美さんの「めがね」も配信中です。
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合わせて読んでみて下さい。
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