同名の書籍が原作になっている映画です。
NHKプロフェッショナルの題材にもなったので、ご存知の人も多いかも知れません。
わたしも気になっていたので、Amazonビデオ(ダウンロード)でレンタルして見てみました!
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この記事では、その感想をお届けします。
俳優陣の卓越した演技に引き込まれる…!
ただの映画としてみたら、この映画はとてもシンプルなもの。
希望を持って、無農薬のリンゴをつくる夢がスタート。
しかし挫折。
でも最後には死の淵で得たヒントを糧に成功する。
典型的なV字を描くサクセスストーリーです。
ちょっと嫌は言い方をすればベター。
わたしはひねくれた性格なので、ベターなものは批判したくなるのですが(笑)、この映画は最後まで本当に楽しく見ることができました。
それはやっぱり主演の阿部サダヲさんと、菅野美穂さんの演技が素晴らしかったからだと思います。
希望の場面では希望を、絶望の場面には絶望を、そして成功にはやはり成功の感情がピタッと寄り添って演技されていく。
これがヘタな人だと「どーせ成功するんでしょ?」としらけちゃうんですけどね(笑)
しかしお二人の演技がとてもエモーショナルで、ついつい感情移入してしまいます。
結果的に老若男女問わず誰でも見て楽しめる作品になっていると思います。
今こそ見たい内容
「ベタなサクセスストーリー」と言いましたが、その中を紐解いていくと、これがけっこう示唆的な内容だとも思いました。
この物語は70年代後半〜80年代後半までの10年間がメインになっています。
その頃の日本は景気が良くて、バブルに向かってイケイケドンドンのご時世でした。
リンゴは「金のなる木」なんて呼ばれていたらしく、舞台となっている青森県でも「たくさん作って売る」が正義だったろうと想像します。
今でこそ「循環型社会」とか「SDGs」なんて言葉が使われていますが、大量生産大量消費が大正義だった中、たったひとりで不可能と言われた無農薬りんごに挑戦するのは相当な苦労があったでしょう。
実際に物語の中盤では村八分にされたり、人間関係での苦労も描かれています。
今はインターネットがありますから、その志を発信すれば仲間も集めやすい。
クラウドファンディングなんか使えば、お金さえ集められる時代になりました。
そう思うと、今からは考えられない孤独の中で夢を見続けた主人公の木村さんを本当に尊敬します。
同時にわたしたちは良い社会を生きさせてもらっているなと思います。
木村さんが最終的にたどり着いたのが、つまり植物は「循環」していることという着想でした。
複雑系をアナログ的に理解する
木村さんは植物(リンゴ)を生態系の一部として理解することで、無農薬りんごの栽培に成功します。
生態系とは、超複雑系です。
一筋縄では理解できないことです。
例えばリンゴにしたって、いくつかの重要な要素はあったせよ、最終的になにがどう影響しあって実がなるのかは、わからないはず。
例えば、リンゴを取り巻くすべてのものを切り刻んで分析してみましょう。
土、木、虫、鳥、風、光、温度…。
さらに分子レベルまで細かく刻んでみても、いや、刻めば刻むほど、どの分子がどの分子に影響しあって、なにをどうもたらすのかを正確に把握することは不可能になります。
きっとスーパーコンピューター富岳だって答えをだせないはず。
それが超複雑系ということだと思うんです。
しかしデジタルのアプローチ(切り刻む)では理解できないことも、アナログ的に理解することは、できるのではないでしょうか?
例えば、デジタル時計のほうがアナログ時計より正確に時間を把握できますよね。
しかしだからといって、アナログ時計を見て「時間を理解できない」わけではない。
わたしたちは正確な情報ではない(と思われる)アナログ時計から、ちゃんと時間という情報を摂取して、判断して、行動しています。
そういう機能が備わっています。
そしてまた、時間を数字で刻むからといって「デジタル時計のほうが正確だ」とも言えないはずです。
つまり、デジタル情報として物事を刻んだとして、ある一定レベルまでなら人は理解したような気持ちになれます。
ところが、刻んだ時点で物事は単純化されているから、多くのものを見落としている。
じゃあ、もっと細かく刻んでみると、今度は細かすぎてむしろ把握できなくなる。
ではどうするか?
その時に必要なのが、アナログ的理解だと思います。
アナログ時計から時間を理解するように、超複雑系を理解する。
デジタル社会を生きるわたしたちは、デジタル的にものごとを理解するのに慣れすぎている気がします。
適当に物事を刻んで、敵と味方に分けるから、争いが激化する。
しかしデジタルが本質的に人を刻むものである以上、これは避けられない。
一方で今、盛んに叫ばれている「SDGs」などは、世界をひとつの生態系として見る目線が欠かせません。
超複雑系である地球や社会、そしてわたしたち人間。
どこまでいっても割り切れません。
しかし割り切れないことを、複雑であることを、拒否せずそっくりそのまま受け入れる。
そのような態度が今、必要なのではないでしょうか?
それはきっと人間にとってツラいことです。
あまりに複雑なことは、考えるのが苦しい。
そんなものは拒否して、インターネットの「共感」の世界に安住したくなる。
しかし、そのインターネットを見ると、時々この世界には光と闇しかないように思えます。
でも人がいちばん愛するのは、その中間に浮かんでくる夕日だったり、藍色の空だったりしますよね。
実はこの映画の主人公も、最初はとてもデジタル的人間に見えます。
またリンゴの成功にデジタル的アプローチが不必要だったようにも見えません。
しかし、周りの意見を振り切って、無農薬リンゴ栽培に挑戦する姿は、まさに人間が効率や正論だけではできていないアナログ的存在であることを示唆しています。
その挑戦の意味を問うた時、最終的には「わからない」とか「愛情」だとか抽象的な概念で表現するしかない。
しかし人は抽象的な存在である以上、それは当然といえば当然です。
そこを切り捨てた時、わたしたちはちょっとおかしな方向にむかうのかもしれません。
そしてデジタル世界はその性質上、常に抽象的概念を切り刻んで、いくらかを捨てていることを忘れてはいけないし、その捨てる行為を現実のコミュニケーションに持ち込んではいけないでしょう。
…と、ちょっと話が大きくなりましたが、そんなことを考えさせられる映画でした。
もちろん小難しいことを考えなくても楽しめるエンタメ作品なので、ぜひ気軽に見て下さい(笑)
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