ひとりで出版業を営まれている烽火書房(ほうかしょぼう)さんから発行されている『のろし 01』という雑誌を買いました。
これがなんとも最高の内容でして…。
まず表紙にある
インターネットにまだ「いいね」がなかった時代から
という言葉が最高過ぎません!?
この言葉のとおり、この雑誌にはSNS以前からネット上で創作物を発表し続ける3人のインタビューが掲載されています。
The Swordというウェブマンガを発表し続けたPagenさん。
マンガソムリエ煉獄扁というマンガ批評ブログを書いていた夏男さん。
アルバム19枚分もの楽曲を発表し続けているHASAMI Groupの青木龍一郎さん。
わたしが彼らを最高だと思う理由は、創作が強い内的な動機に支えられているから。
それこそ「いいね」目的ではないように見えるからです。
今のSNSで作品を「バズらせる」には、作品をアルゴリズムに最適化するのが手っ取り早い。
でもアルゴリズムが市場原理によって決定される以上、アルゴリズムへの最適化=作品の大衆化にほかなりません。
もちろん、大衆的作品が全てつまらないわけではないですが、かつてネットは大衆的な媒体に乗りづらい作品の受け皿として期待されていたはずです。
その時代のおもしろさを知っている身からすると、今のSNSでバズる作品はひどくつまらないものに見えます。
「その時代のおもしろさ」とはつまり、内的な動機に起因する創作物の独特な雰囲気だったのだろうと思います。
それは幼い子供が何にもとらわれることなく熱中して作った作品が、時に大人を驚嘆させる作品になり得ることに似ているかもしれません。
今、この雑誌で語られているようなシンプルな創作意欲はネットの世界でどんどん影が薄くなっているように感じます。
情報としての「バズる方法」や「稼ぐ方法」が蔓延する中で、作り手だってそりゃあ多くの人に見て欲しいですから、それらの情報を参照するでしょう。
結果、シンプルな創作意欲が早い段階で棄損されているようにも感じます。
しかし実は創作を楽しむにしても、創作で稼ぐにしても、そのシンプルな創作意欲がいちばん大事だというのに。
とは言え、彼ら3人を参照すると、プラットフォームの強さや魅力も同時に感じるんですよね。
The SwordをKindleで自己出版(KDP)すれば、もっと広く読まれるだろうし、けっこうてがたい稼ぎになりそうです。
関連記事:KDPでオリジナルKindle本を出版した手順。縦書きのEPUBファイルを簡単につくる方法
HASAMI GroupもSpotifyなど音楽サブスクに配信し、サブミッションメディアを利用して拡散すれば、もっと人気が出そうな予感。
関連サイト:TuneCore Japan
矛盾していますが、プラットフォームへ作品を流通させなければ、やはりそれでお金を稼ぐことも難しい。
でも、矛盾する方が良いとわたしは思います。
大衆性ばかりを求める作品は純粋性を。
純粋性しかない作品は大衆化へと。
振り子のようにその間をいったりきたりすることは決してカッコ悪いことではないし、むしろわたしはそのような挑戦を続ける作家を尊敬します。
ただ、今現在においては、かつて強い純粋性を担保する存在だったネットが大衆性のほうへ強く振れすぎている。
ですから、「のろし」のような雑誌が必要なのです。
わたしたち作り手はもういちど純粋性から創作をはじめて、ネット上に安心してそのような作品を発表できる場を作った方が良い。
そしてまたきっと「大衆」の世界で悩み苦しむ作家も、再び純粋性を取り戻すことで、また戦うエネルギーを充填できるような気がします。
そういった作り手が忘れてはならい、純粋性の目印として「のろし」というタイトルは言い得て妙。
創作の世界で迷子になった時を想定して、部屋の本棚に静かに烽火をあげておく。
それは作り手にとっての心のお守りのようなものかもしれません。
『のろし 01』は烽火書房さんの公式ネットショップで購入することができます。
なんと装丁はハンドメイド!
なにか創作をしている人にはぜひ読んで欲しいのですが、できるだけ多くの人に読んで欲しいなぁと思います。
実際、創作ってほんとに楽しいものだと思うんですよね。
創作の素朴な楽しさを多くの人に知って欲しい。
この本の中にある純粋性が、きっとあなたの創作意欲の背中を押してくれると思います。
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