今週のお題「最近おもしろかった本」
エッセイストの勢古浩爾さんの『ただ生きる』を読みました!
今のじぶんにとってこれほど魅力的なタイトルはなかった…。
目的、意味、勝利、情報。
そのへんの概念があふれる世の中で、どうにもこうにも「ただ生きる」ことがむずかしいと感じる今日このごろ。
子どもの頃のように、なにかに夢中になる、没頭する、まわりを忘れて集中する。
そんな感覚が恋しく、またそれは「ただ生きる」に近いと思っていました。
だから「ただ生きる」ことを誰か教えて欲しい。
そんな気持ちで手に取った1冊です。
だた生きる、美しい人たち
まず序盤はうるさすぎる世の中への批判からスタート。
これはよくある構成ですよね。
75歳になる筆者の世間への”苦言”。
そう言われると、どうも説教臭くて読む気がしないでしょう(笑)
でも不思議と読めてしまったのは、筆者自身が「成功者」として威張るわけでもなく、逆に「敗者」としてヘソを曲げているわけでもないから
多くのビジネス本は、まずじぶんが成功者であることを語る。
また逆に多くのエッセイ本はじぶんが敗者、あるいは被害者であることを語ります。
しかしこの本には、そういった「勝ち負け」の目線が少なく、むしろじぶん自身も批判するその対象の一部であるような目線を保っているように感じます。
筆者自身もそれなりに俗物である、と。
だから書いてある内容は批判や苦言であっても、どこかチャーミングな雰囲気がありました。
そして話は世間に対して「ただ生きる、美しさがない」というところから「では、美しさとは?」という方へ移っていきます。
それを筆者は様々な美しい人を紹介しながら説明していきます。
白洲次郎、吉本隆明など偉人と呼べる人たちから、大谷翔平選手、小平奈緒選手などスポーツ選手まで。(なんと小説の登場人物まで!)
多くの美しい人が登場するので、この本からさらに次の本、次の本へと興味関心を広げるキッカケになりそうでした。
実際にわたしは読みたい本がいくつか見つかりましたね。
わたしにとって美しい人
この本を読んで、筆者の勢古さんが憧れ、称賛する美しい人たちのように、わたしにも憧れの美しい人がいるなぁと思い返しました。
やっぱりわたしにとってそれはロックバンド元ブランキー・ジェット・シティのメンバーです。
2000年に解散したバンドですが、メンバーの
- 浅井健一
- 照井利幸
- 中村達也
の3人は、まだまだすごい音楽と作り続け、奏で続けています。
60歳を目前とした3人が、これほどすごいミュージシャンであり続けている事実は、わたしに勇気を与えてくれる。
特に最近だと照井さんの新譜はすごかったです。
近年、照井さんはレーベルや事務所に所属せず、独立的に活動されています。
何にもとらわれることなく、ただ真摯に紡がれたその楽曲たちは、まさに「ただ生きる」が音になったように感じます。
視聴・ダウンロード購入:PISCES | TOSHIYUKI TERUI | WELD MUSIC
「ただ生きる」で言うと、浅井健一さんの『Beautiful Death』もまさにそんな歌ですね。
まっすぐ生きて 綺麗に死ぬ
愛するものを愛し続け
まっすぐ生きて 綺麗に死ぬ
愛するものを愛し続け
できたら途中でたくさん 笑える場面があればいい
できたら途中でたくさん 感動できたらなおさらいいぜ
本書『ただ生きる』には、わたしが心酔するこういったミュージシャンだけでなく、世の中にはまだまだ美しい人がいるんだぁと前向きな気持ちをもたせてくれる本でした。
夕日書房
ところでこのの本は夕日書房というあたらしい出版社から出された本のようです。
独立した出版社なのか、それとも光文社の社内レーベル的な感じなのか、ちょっとわかりませんけど、気になる出版社でした。
理念
人生は夕方が楽しい、という言葉があります。人生の夕方に醸し出される、ゆったりとした穏やかであたたかい煌めく想い。――その美しさにも厳しさにも、優しさにも似た人の生の意味を映し出すにふさわしい成熟度の高い一冊を。きれいごとかもしれないけれど、活字の価値を最後まで信じて、人生を照らす夕日のような本を提供いたします。
理念を読むと壮年の方むけの本を出版する会社なのかと思いますが、『ただ生きる』と同時発売の、中沢孝夫さん『働くことの意味』なんかはむしろ現役世代むけっぽい。
気になったので、買ってみようと思います。
『ただ生きる』読みながら思ったのは「気心しれた友達と、こんな話に興じていたいなぁ」ということでした。
誰かの愚痴や文句じゃなく、ただ美しいヒトやモノを語り合う。
そんな時間がなぜか懐かしい。
この本を読む時間が、そんな時間に似ていたような気がします。