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山口周さん『ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す』を読んだ感想。共感と違和感が半分ずつ

山口周『ビジネスの未来』の表紙

非常に評判がよく、話題になっていた山口周さんの『ビジネスの未来』という本を読みました。

読んでみると、共感と違和感が半分、半分…そんな感想を持ちました。

「当事者意識が欠けている」という指摘に共感

この本はまず前半部分で、現在と過去のデータを参照しながら未来の展望を示しています。

後半部分でその「未来=新しい時代」において、どのように生きるべきかを考察しています。

 

この本で印象的になんども指摘されているのが、わたしたちの「当事者意識」についてです。

当事者意識という言葉は直接出ては来ませんが「社会の一員として個々人に責任があるんだよ」が主張が繰り返しなされています。

これはともすれば「自己責任(論)」としてすり替えられそうな話ですが、そこまで過激な印象はなく、「当事者意識」という言葉が妥当に思えます。

 

わたしも当事者意識がこの社会に欠けていると感じます。

今、インターネットによって個人の力はかつてないほど増大していますよね。

最近では、ステイホーム中にSNSで「検察官の定年延長」「種苗法」といったトピックが盛り上がり、それが世論となり国の意思決定に影響を与えましたことも記憶に新しい。

 

しかし影響力が高まれば、同時にその責任も大きくなっていくはずです。

芸能人にクソリプを送る人、誹謗中傷をする人は、そのひとつひとつの言葉が社会を悪くしているという実感をもっていないでしょう。

当事者意識があれば、そのような発信はできないからです。

匿名であるインターネットの特性がそうさせるのか、当事者意識を欠落させる圧力になっているのでしょうか。

 

当事者意識を喚起させる手段として「増税」が提案されていたのは「なるほど」と思いました。

どのみち増税は避けられないと思うのですが、増税によって思わぬ副産物があり得るという学びは貴重でした。

違和感を覚えた部分

一方で違和感を覚えた部分。

 

まず前半で展開される「現状認識」ですが、「スクラップ&ビルドを前提とした経済の在り方は限界だ」という主張は賛同します。

まったくその通りに思えます。

 

違和感を覚えたのは「コンサマトリーな仕事」の部分です。

本書では「新しい時代においては感情や衝動、想像力をベースにしたコンサマトリーな仕事をするべき」と主張しています。

アーティスト的思考を発揮した問題発見能力や、感情をベースとした衝動的な仕事の取り組み方が推奨されています。

 

ここに「感情の枯渇」という問題があると考えます。

 

例えば本書には「生産者と消費者の顔の見える関係づくり」という項がありますが、率直いって「誰の顔を見たくない」という時が人間にはありますよね。

そんな時、拠りどころになるのは逆に「無感情な仕事でできた場所」なんだろうと思います。

 

わたしは最近、「ストーリー疲れ」を起こしています。

「D2C」が声高に叫ばれる中で、さまざまなブランドがストーリーを発信しています。

否定はできませんが、正直に言うとそこまで物、人に真剣に向き合いたくない時が多々あります。

人の感性はさまざまですから、興味のある分野では心のこもった製品が欲しいでしょう。

しかし自分の興味ない分野まで「感情」や「ストーリー」「顔」を押し付けられると、これは非常に息苦しい。

 

また消費者としてだけではなく、生産者としても顔が見えすぎることに憂慮します。

ひとりひとりの顧客と真摯に向き合うことは、骨が折れることです。

アーティスト、クリエイターだけでなく営業や接客業など感情労働を考えれば、その苦労は容易に想像できます。

「コンサマトリー」に仕事に取り組むことで、かえって前時代より鬱的な症状を呼び起こす可能性も否定できないと思います。

 

顔の見えない単純労働は、集中して取り組むことである種の癒しがあるようにも思うのです。

つまり「人間関係が苦手だから、シンプルな単純労働がむいている」という人もいるだろうということ。(労働時間は減らすべきと思います)

 

「コンサマトリーな仕事」は心と心を通わせる充実感があるかもしれないけど、一方で生産者、消費者共に感情が枯渇する可能性がある。

その時に感情を回復させるには孤独が必要であり、孤独を保証してくれるのが顔の見えない労働でできた「無感情の能面のような製品」ではないでしょうか。

 

ファッションに興味がない人がユニクロを、食に興味がない人がサイゼリヤを、インテリアに興味がない人はニトリを買うように、人の感情に限界がある以上、「能面の仕事」はこの社会に欠かせないと思います。

 

コンサマトリーな仕事とは、それ自体が目的となり、結果としての報酬ではなく、仕事それ自体に価値があるという定義がなされています。

そうであれば「無感情な能面の仕事には孤独という直接的なメリットがあるので、コンサマトリーな仕事に包括される」と言うこともできるでしょう、

しかし、であれば「クソ仕事」にもコンサマトリーな価値を見出すことが可能になるので、結果的には何も変わらないかもしれません。

つまり「コンサマトリー」という言葉では、その定義をいかようにも解釈できるので社会を変革する推進力は得られないのではないでしょうか。

 

緊急事態宣言中に思いました。

「”緊急事態”と言っても、スーパーで寿司を買える日本すごいな…」と。

その豊かな状況を作ってくれている「仕事」には、おそらく「能面の仕事」も含まれていると思います。

 

だからと言って、「能面の仕事」に人生を縛り付けられる人生を良しとするわけではありません。

1日8時間週5日という労働時間は是正されるべきですし、そのためにテクノロジーを使うべきだと考えます。

とは言え、能面の仕事が社会で全く必要でなくなるという実感は持てないのです。

 

 

また本書では「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の導入が提案されています。

ベーシックインカムとは全員に無条件に生活するに必要なお金を配布する政策のこと。

はじめに断っておくと、わたしはベーシックインカムに基本的に賛成しています。

というより、わたし自身がベーシックインカムになれば生きやすくなる特性を備えているだろうと思うので、自分勝手に言えば賛成です。

 

「コンサマトリーな仕事」は衝動的な行動を良しとするので、結果的にリスクをとることになります。

そこで誰でもリスクを取りやすいようにベーシックインカムを導入する必要があると。

 

しかしベーシックインカムを前提にしながらも、本書ではベーシックインカムの実効性に詳しく言及していません。(めちゃくちゃ長くなるからだと思いますが)

「コンサマトリーな仕事に多くの仕事が従事し、これまでの経済の枠組みでは解決できなかった問題に次々と着手し解決していく」という未来は魅力的ですが、ややベーシックインカム頼みという感が否めません。

 

例えばベーシックインカムには「ベーシックインカムからこぼれ落ちた人の社会保障をどうするか?」「ベーシックインカムを求めてやってくる移民はどうするか?」など議論を深めるべき問題が山積しています。

本書ではコンサマトリーな仕事が活発になる未来を「高原社会」と表現しています。

今すぐにベーシックインカムを導入したとして、高原社会へと近づくのは間違いないでしょうが、おそらくそれは何よりもハードランディングになると思います。

 

かといってベーシックインカム以外の答えを見出すのも難しい。

おそらくベーシックインカムは変革のきっかけではなく、結果として立ち現れてくるのではないでしょうか。

 

わたしも「コンサマトリーな仕事」が増えれば良いなと思います。

しかしその理想の社会を下支えするのがベーシックインカムだけではやや楽観的だと言わざるを得ません。

 

ベーシックインカムの前段階として、さまざまな小さな改善が必要なんだろうと思います。

それはシンプルに言えば「いまある仕事の質的な改善」だと思います。

労働時間や報酬、パワハラなどの労働問題は盛んに叫ばれていますが、まずはそちらを丁寧に解決していくことがベーシックインカムより実効性が高いのではないでしょうか。

 

そうして「改善された仕事(単純労働)」でもって生活を下支えにしながら、同時に「コンサマトリーな仕事」に取り組むことが、高原社会の前段階として必要に思えます。

それは、最近はあまり聞かなくなりましたが「複業」といったことかもしれません。

 

「単純労働」と「コンサマトリーな仕事」の比率を劇的に逆転させるにはベーシックインカムが有効でしょうが、いきなり導入すれば間違いなく弊害があると思います。

 

総じて本書を書いてあるのは「新しい時代でエリートになる方法」だと感じました。

高原社会に適応できないであろう人間がどうしたらよいかは書いてありません。

しかし冷静に考えてみれば、本書は「ビジネス本」のくくりで発売されている本であり、ビジネス本とはすべからくエリートになる方法を書かれているわけです。

つまりわたしのこの感想自体が的外れなんだろうと思います(笑)

 

なんだか違和感の部分が多くなってしまいましたが、読んでみるとさまざまな気付きを得られる本です。

平易な文章で書かれているので、読みやすい部類に入ると思います。

こんな暗いご時世ですし、明るい気持ちを充電したいビジネスマンには読んでみる価値があると思います。

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